なんでってもおすこし考えれおまえ |
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久々に衝撃的な本と出会った
数日前に「島抜け」を読んだ。江戸も末期、瑞龍という講釈師が幕府の統制の見せしめにより種子島へと島流しになる。島抜けするも漂流の末、清に流れ着き、ようやく長崎に戻ってくるも・・・。世の中の流れに翻弄されながら生きる瑞龍の姿が淡々と迫ってくる。またさらに歴史公証が丁寧に行われている本だからだろうか、その時代の世相、風俗が活き活きと伝わってくる。夢中で読んでしまった。 2-3日後に図書館から予約していた「高熱隧道」が届いたとの連絡が入った。表紙を見て驚いた。数日前に読んだ「島抜け」と同じ吉村昭の作品であった。 「引き上げられた遺体は、陸軍少尉の肩章をつけている若い男だった。・・・」これは書き出しの一節であるが、この書き出しが、これから語られる黒部ダム建設の壮絶の深さを暗示しているようで、ぞくっとし、せかされるように急いで読み進めた。 時代は戦争に突き進まんとしている昭和の初め。着工の昭和11年といえば二・二六事件や日独防共協定が締結された年。黒部ダムによる電源開発は阪神地帯の工業力増強のため、国の強い要請によって押し進められる。ダムを造営するための資材運搬トンネルが開通した昭和14年までの間、300名もの死者を出す。ほぼ人力で岩盤を掘削するも、最高岩盤温度は165℃に達する。40℃が使用制限温度であるダイナマイトは自然発火による暴発を起こし、人夫の体はばらばらに吹き飛ばされた。また自然の脅威も襲いかかる。泡(ほう)雪崩により、宿舎が引きちぎられ数百m離れた岩壁に叩き付けられる。 多くの死者を出しながらも工事はすすめられる。電力確保を優先する国策ゆえに。そして命を落とすのは、実際にトンネルを掘る人夫であり、それを指揮する技術者は死なない。 最後にトンネルは完成する。プロジェクトXであれば「人間は自然の猛威に勝ったのである」「●●(主人公たち)はやり遂げたのだ」などなど 勝者についてあの語り口で終わるだろう。しかしこの話はそうは終わらない。人夫達の恨みが主人公たちに迫り、そして逃げるように現場から離れる主人公達の姿を描き、この話は終わる。誰が勝者なのだろうか。勝者は誰もいない。 主人公など登場人物は架空ということだが、壮絶な隧道工事の話は実話であるという。 この本を紹介してくれたあさちん ありがとう。 ※著者 吉村昭は2006年7月31日に癌で亡くなったとのこと。最期は延命を嫌い、自分自ら体につながれている数本のチューブを外した。次は彼の代表作のひとつである「漂流」を読んでみたい
by wuchinco
| 2006-09-11 01:22
| book
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